手軽に快適なアウトドア体験ができることで人気のグランピング。
日本各地に、その土地の利や自然を活かし、趣向を凝らしたグランピング施設が続々とオープンしています。
特に、新型コロナウィルスの感染防止対策として、アウトドアに注目が集まったこともあり、「他の人と接することなく完結できるアウトドア泊を快適に行える施設」としてグランピング施設の需要は高まる一方。
さらに事業再構築補助金や、国立公園でのグランピング開業のための補助金などもあり、これからグランピング事業を始めてみよう!と考える事業者も多いです。
でも、実際にグランピングを事業として始めるためには土地や施設の整備だけでなく、行政の審査も通さなくてはなりません。
グランピング事業に関わる行政手続きのうち、避けて通ることができないのが、旅館業法の許可申請。「法律」「許可」と聞くとちょっと面倒な気持ちになってしまいがちですが、まずはどんなものなのか、そして許可を得るためにあらかじめ想定しておくことはなんなのか、条件や注意点をまとめました!
グランピング運営に旅館業法の許可は必要?
グランピングを始めるにあたって、旅館業法の許可は必要かどうか・・・、答えはYESです。
旅館業法というのは、「施設内に宿泊できる場所と寝具を用意し、不特定多数の人に宣伝をして、継続的に利用料金をもらって宿泊してもらう」場合に適用されます。
グランピングも、上記の活動を行うわけなので、ずばり旅館業法の対象となりますよね。
逆にいうと、以下のような場合には旅館業法の対象にはなりません。
- 友達をたまに泊める
- 宣伝をしないで、知り合いだけを泊める
- キャンプ場で、テントや寝袋を貸し出して、お客さんに自分で設置してもらう
- 日帰りグランピングのみ
- 宿泊も利用料も無料
通常、「これからグランピング事業を始めよう!」という場合には、上の項目には当てはまらないと思われるので、やはり旅館業法について理解しておくことが必要そうですね。
キャンプ場で「手ぶらキャンプ」みたいな感じで、大型テントやシュラフを貸し出してレンタル料ももらい、設営はお客さんにしてもらう場合にはセーフという感じです。
そもそも旅館業法って?
旅館業法は、前項で触れたように、「施設内に宿泊できる場所と寝具を用意し、不特定多数の人に宣伝をして、継続的に利用料金をもらって宿泊してもらう」場合に対象となる法律で、旅館業法の営業許可申請先は保健所で、実際に許可を出すのは都道府県知事です。
旅館業法は昭和23年(1948年)に制定された法律で、「旅館業の業務の適正な運営を確保することにより、旅館業の健全な発達を図るとともに、旅館業の分野における利用者の需要の高度化及び多様化に対応したサービスの提供を促進し、もって公衆衛生及び国民生活の向上に寄与することを目的とする」とされています。
要するに、「お客さんからお金をもらって宿泊してもらうという意識を高め、衛生管理などをしっかりし、施設内での疫病の蔓延などを防いで健全に運営しましょうね。」という意味ですね。
そういった理由から申請先は保健所となっていて、許可基準にはトイレや入浴設備などの衛生設備が含まれています。
旅館業法には、その形態によって4種類あります:
- 旅館・ホテル営業:和室または洋室で、1部屋7㎡以上
- 簡易宿所営業:宿泊する場所を多数人で共用する構造及び設備を設けてする営業
- 下宿営業:1ヶ月以上の期間を単位にして宿泊
グランピング施設は、ほとんどの場合、2の簡易宿所営業で申請することになりますが、宿泊棟の数によっては旅館・ホテル営業の許可取得を勧められる場合もあるようです。
旅館業法の許可申請が必要な場合
新しくグランピング施設を始める、という場合にはもちろん、それまでにホテル業を営んでいたという場合などでも、新たに申請が必要となります。
どういった場合に、新たに申請が必要になるかというと・・・
- 新しく建物を建て旅館業を経営を始める場合
- 既許可営業施設で、建築延べ面積の50%以上にわたる増改築、移転等を行う場合
- 既存の建築物(旅館以外の用途のもの)を用途変更して旅館業を営業する場合
- 既許可営業施設を譲り受け新たに旅館業を経営する場合(前営業者の廃業後の新たな営業)
- 既許可営業の種別を変更する場合(ホテル・旅館営業→簡易宿所営業への変更など)
- 営業者が「個人→別の個人」「個人→法人」「法人→個人」「法人→別の法人」へ変更する場合
増改築や名義変更などでも、新たに申請が必要とのことなので注意が必要です。
旅館業法に違反してそれが発覚すると、刑の執行後3年間は旅館業法に許可申請ができなくなってしまうので、新しく始めるという場合でなくても上記にあてはまならないかチェックしてみてください。
簡易宿所営業の許可に必要な条件
グランピング施設運営では、ほとんどが簡易宿所営業での許可申請になるため、ここでは簡易宿所営業の許可に必要な条件を紹介していきます。
ちなみに、簡易宿所営業では客室数の制限は特にないため、宿泊棟が5つ以上あるから旅館・ホテル営業というくくりにはなりません。
客室床面積1人当たり3.3㎡以上
2016年以前は、1部屋あたり33㎡以上という基準が設けられていた簡易宿所営業ですが、2016年に改正され、利用人数1人に対して3.3㎡以上あればOK、となりました。
つまり、例えば30㎡のドームテントの最大利用人数が5名とした場合、1名あたりの面積は6㎡となるので余裕でクリアできます。
逆に、寝袋を敷き詰めて30㎡のテントに10人宿泊、とかだとNGですね。
宿泊者の需要に対して適当な規模や数の入浴設備やトイレ
例えばキャンプ場であれば、トイレはあってもシャワーの設備がない代わりに、近隣の日帰り温泉を利用してください、といった案内ができます。
でも、グランピングの場合は、施設内に適切な数のトイレはもちろん、シャワーまたはお風呂を用意しなくてはなりません。
適切な数、というのは明確に定められてはいませんが、ゲストルーム10棟に対して、3〜5箇所のシャワールームやトイレを設置することが望ましいです。
極端に数が少ない、遠い、などあると後々クレームや悪い評価にもつながるので、シャワー・トイレの数や立地には気をつけたいところですね。
規定はありませんが、男女別のトイレ・シャワーにするなどの配慮もグランピング施設としてはポイントが高いです。
最近ではより快適なグランピング泊をしたいというニーズもあり、それぞれのゲストルームに個別のシャワー・トイレが併設してある施設も増えていますが、許可申請では個別に設置していなくてもOKです。
適当な換気、採光、照明、防湿、排水の設備
宿泊をサービスとして行う全ての施設に共通する項目ですが、適度に快適な環境を提供する必要があります。
テントを使ったグランピング施設の場合だと、ドームテントなど機密性の高いテントであれば換気を、コットンテントなどのように吸水性の高い素材であれば防湿・防カビなどに配慮するようにしましょう。
衛生という観点から、排水やトイレ周りの環境作りも大切ですね。
玄関帳場(フロント)の設置について
どのような人が宿泊し、どのように料金が支払われたか・・・などを管理するために、以前は玄関帳場(フロント)の設置が必須とされていました。
しかし、簡易宿所営業については、玄関帳場(フロント)は必ずしも必須ではないと平成29年に法令が変わり、国の法令では玄関帳場の設置義務が無いことになっています。
しかし、実際には各都道府県や市町村の条例では設置が必須になっている場合も多く、また以下のような条件の条例を出している場合もあります。
- 利用者が10名以下の場合には玄関帳場(フロント)の設置が必須ではない
- 何か不測の事態(火事や事故、犯罪など)が起きた場合に管理者として迅速に対処できるような体制を取れていればよい
- 複数の簡易宿泊所に対してフロントは1箇所で良い
- ビデオカメラなどで人の出入りが常にチェックできていれば良い
まずは、施設を運営する予定の地域の保健所に旅館業法の申請に問い合わせて、その地域の条例を確認してみましょう!
旅館業法違反者は3年間申請できない
前項でも述べましたが、旅館業法違反や、旅館業法違反をして旅館業登録を取り消された人、法人の役員で旅館業法違反をした人で有罪刑になり、その刑の執行が終わってから3年が経っていない人は旅館業登録が出来ません。
地域の環境を乱さない
宿泊施設を新しく作る場合に、その施設から100m(自治体によっては200m)以内の場所に学校や児童福祉施設、図書館、美術館などがある場合、宿泊施設ができることで周囲の教育環境に悪い影響がないかどうか、保健所が教育機関の意見聴取を行う場合があります。
そうなると、調査結果に時間がかかってなかなか申請にこぎつけなかったり、計画自体を土地探しからやり直したりしなくてはならない可能性も。
また、施設自体に問題はなくても、2人向け(カップル向け)のゲストルームが多かったりすると「ラブホテル」とか「モーテル」なんじゃないかと判断されてしまったりする場合もあるようなので、あくまで健全なアウトドア泊を提供する場所だということを、近隣の教育施設に伝える必要があります。
簡易宿所営業の許可に必要な土地の条件
旅館業の営業許可が取得できるのは、都市計画法で定められた用途地域のうち、
- 第1種住居地域
- 第2種住居地域
- 準住居地域
- 近隣商業地域
- 商業地域
- 準工業地域
となっています。
都市計画法の対象地域でない田舎の空き土地などは、「無指定」となっている場合もあり、こちらもOKです。
ただし、「農地」になっていると農地からの転用手続きなどが必要です。
グランピング施設を計画する場合に、あまり都市部や住宅街を選ぶことはないかと思いますが、以下の地域は住居しか立てられないので申請できません。
- 第1種低層住居専用地域
- 第2種低層住居専用地域
また、通常の旅館業許可の取得には、消防署が示す「消防法令適合通知書」が必要となり、施設予定地が「防火地域」や「準防火地域」、「建築基準法における22条区域」に指定されている場合には、使用するテントなどの素材が防火基準を満たしているか、建築確認は必要なのか、など色々と制限が加わってしまいます。
グランピング施設を始めるにあたって、土地探しからの段階であれば、なるべく制限の少ない地域を選ぶと良さそうですね。
グランピングのテントが建築基準法の対象かどうかについては、こちらの記事でも触れていますので読んでみてください。
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簡易宿所営業の許可申請に必要な書類
簡易宿所営業の許可申請に必要な書類は、それぞれの都道府県や自治体によって異なりますが、大まかに以下のようになります。
(参照:山梨県の場合)
- 旅館業営業許可申請書
- 営業施設の構造設備の概要
- 施設(車庫及び駐車場、植栽を含む)の敷地配置図
- 各図面(立面図、各階平面図)
- 建物の色彩がわかるもの(色彩立面図、カラー写真など)
- 施設の所在地から半径150メートル以内の図面(特に学校等との距離を明確に示したものであること)
- 建築確認申請に基づく「検査済証」の写し(建設事務所又は指定確認検査機関)
- 消防法令適合通知書(原本)(消防署)
- 申請者が法人等の場合は定款又は寄附行為の写し
- 旅館業許可申請手数料(県によって異なり、一般的には22,000円)
このうち、ゲストルームを解体・移設が可能なテントで行う場合には、建築確認が要らないことが多いです。
ただし、グランピングテントを建築物とするかどうかについては土木事務所の見解にもよるので、事前に相談してみましょう。
飲食店営業許可申請に必要な書類
グランピング施設運営のために、必要な許可申請はもうひとつあります。
それは、飲食店営業許可申請。
「全て持ち込みBBQ」または「素泊まり」プランだけを提供する場合は必要ありませんが、調理前の食材を提供する場合でも「飲食店営業許可申請」も必要となり、保健所によっては旅館業法の申請と同時に案内を行なっている場合もあります。
こちらも、都道府県によっても異なりますが、一般的には以下のようになっています。
(参照:山梨県の場合)
- 食品営業許可申請書
- 厨房の平面図
- 食品衛生責任者の選任届
- 施設付近の地図
- 水道水以外の水を使用する場合は水質検査成績書
- 食品営業許可申請手数料(各都道府県の食品衛生法施行条例で定める額)
その他、飲食の一環としてアルコールを提供する場合は不要ですが、缶ビールなどを売店で販売する場合には「酒類販売業免許」も必要となるのでご注意を。
飲食店営業許可や酒類販売業免許については、こちらの記事でもくわしく紹介しています。
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以上、グランピング施設の運営に欠かせない、旅館業法の簡易宿所営業許可について、またグランピング施設の計画の際に留意したい土地選びについてまとめました。
旅館業法の申請窓口は保健所ですが、申請内容や条件は都道府県・市町村によって異なりますので、必ず予定地管轄の保健所に確認をしてみてください。
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