Park-PFIという制度、建築や都市計画に関するお仕事をしている人や、公園関連のインフラなどに関わる人の間では話題になっていますが、ご存知でしょうか?
PFIとは平成29年(2017年)に国土交通省によって提案された制度の通称で、「Private Finance Initiative(直訳すると、民間・ファイナンス・主導権)の略。その頭に公園を意味する「Park」がついたPark-PFIは、さらに略して「P-PFI」とも呼ばれています。
制度が始まってから3年余り、このPark-PFIを活用してできたグランピング施設が全国各地にオープンしています。
グランピングを開業することと大きな関わりのあるこのPark-PFI制度について、概要を分かりやすくまとめ、実際にPark-PFIを活用して生まれた施設をご紹介していきます。
PFIは1992年にイギリスで生まれた行財政改革の手法で、日本ではPFI法として1999年に導入された制度で、公共サービスの提供に際して公共施設が必要な場合に、従来のように公共が直接施設を整備せず民間資金を利用して民間に施設整備と公共サービスの提供をゆだねる、という手法のことです。
より簡単にいうと、「国や市町村の持ち物である施設を、民間企業の知恵やスキルを活かして活用しつつ、公共のサービス拠点として活性化する」ことが目的の制度で、基本的に公募で民間企業が選定されます。
イギリスやアメリカでは公立の学校や刑務所などでも活用されている制度ですが、日本では代表的なものに東京都霞ヶ関にある「中央合同庁舎第7号館」があげられ、日本の中央省庁の合同庁舎としての建物の一面と、「霞が関コモンゲート」として商業施設やテナントの入る専用棟が共存するスタイルとなっています。
そのほかにも、病院や美術館、運転免許センターなど様々な施設がPFI制度でリニューアルしていて、実際には私たちの知らない間に浸透している制度です。
民間による管理・運営はある一定の期間が設定されているため、その期間内に民官両方にとって有意義な施設を作り、周辺環境を活性化したりサービスの向上から地域住民の幸福度を上げたり観光客を増やすなどの結果を出すことも大事になってきますね。
上記で簡単に説明したPFI法の中でも、特に「公園の整備・運営・管理」に特化したのが、Park-PFI(P-PFI)。
国や市町村の財産である公園を、より有意義に使うための知恵や運営スキルを民間に委託する代わりに、公園という土地を利用する権限を与えるという制度で、運営側(民間企業)は収益の一部を公園の管理費として還元するというシステムです。
また、市町村が管理している空き地で新たに公園を作る、という場合にも適応されます(例:移転後の国立大学跡地を緑地公園にする)。
公園の中に新しい施設を建設・運営する際に周辺の歩道や広場も整備・改修する必要がある場合、公園を所有する市などが負担する費用のうち半分を国が支援するという助成金(官民連携型賑わい拠点創出事業)があったり、特別な貸付制度なども整備されていて、地方自治体・民間企業が共に参加しやすいようになっています。
国立公園であれば国が、市の公園であれば市が、Park-PFIの制度を活用して活性化できそうな潜在的魅力のある公園を選定し、公募でその公園で事業を行いたい企業を選ぶという流れになっています。
公園の規模や立地にもよりますが、公募で募集されるのは以下のような業種形態。
公募の条件などは各市町村などによって異なりますが、一般的に建物を建てられる面積がかなり少ない(建蔽率が低い)公園で、Park-PFIによる特例が認められる(通常2%のところ、10%までOK)などの優遇があります。
また、公園をより快適で利便性の高いものにするためのインフラ整備に関しても、公募によって実施される場合もあります。
例えば、Park-PFIを活用してリニューアルすることが2020年に決定した静岡市にある城北公園のスケジュールは以下のようになっています。
公募設置等指針等の配布 | 令和2年12月14日(月)〜令和3年 3月 5日(金) |
公募設置等指針等説明会申込期限 | 令和2年12月22日(火)まで |
公募設置等指針等説明会 | 令和3年12月23日(水)〜 |
公募設置等指針に対する質問書受付 | 令和2年12月23日(水)〜令和3年 1月15日(金) |
質問書に対する回答 | 随時 |
公募設置等計画の受付 | 令和3年 3月 1日(月) 8時30分から 令和3年 3月 5日(金)17時まで |
提案内容プレゼンテーション | 令和3年 3月中旬 |
選定結果の通知 | 令和3年 3月下旬 |
選定結果の公表 | 令和3年 3月下旬 |
(参照:静岡市:城北公園において公募設置管理制度(Park-PFI)を活用した事業者を公募します!)
指針の配布→説明会→質問受付→計画提出(企業)→プレゼン(企業)→選定
という流れになっていますね。
静岡市の場合は、応募できる条件として
などがあげられていて、全ての人が気軽に参加を申し込めるものではないということも分かります。
ただ、各種資格等については「法人グループのうち少なくとも1者は」ということなので、有効な資格のある法人同士で協力しあって取り組むことも可能。
日本全国、このようにPark-PFIの公募案は随時あり、「Park-PFI推進支援ネットワーク PPnet」で情報の閲覧ができるほか、登録しておくと地方公共団体にアピールできたり、有益な情報を得ることができます。
ちなみに、上で挙げた静岡市の城北公園の例では、公園の土地利用料の最低額は100円/㎡・月 となっています。
一般的にカフェや店舗などが併設される事例が多いPark-PFIですが、グランピングとも実はとても相性の良い関係にあります。
というのは、「さほど苦労せずに自然豊かな環境でアウトドア泊がしたい」というグランピング利用者側のニーズと、「公園(特に都市公園)の自然環境を維持しつつ、活性化させたい」というニーズが合致しているから。
施設運営者側にとっても、これまで公園として管理されてきた土地の方が使いやすい、アクセスしやすい、インフラ整備がしやすい、導線がとりやすい、賃貸形式で利用できる、など更地を購入してゼロから始めるよりもメリットが多いのではないでしょうか。
特に2020年以降、新型コロナウィルスの影響で大きな観光業にあっても好調に拡大を続けているグランピングなどのアウトドア産業と、屋外で楽しく過ごせる公園の相性は抜群です。
しかも、広大な公園をそのまま全部借りるというわけではなく、その一部に施設を作るというイメージですが、利用者から見たら公園全体が利用できて開放感もあり、公園自体の管理は
もちろん、地方自治体が管理する公園内ということで、景観面や安全面など、制約もあるかもしれませんが、公園でグランピング施設を開業するというプランも視野に入れて考えてみてはいかがでしょう。
ちなみに、Park-PFIを活用する場合の条件として「通年で営業できる施設」となっている場合が多いため、グランピングを考える際にも季節を問わず通年安定してゲストルームとして運用できるドームテントやモバイルハウスなどの採用がオススメです。
実際に、Park-PFI制度を活用して開業したグランピング施設をご紹介します。
静岡県沼津市の愛鷹運動公園は、30年の間愛されてきた林間学校を現代風にリノベーションし、「泊まれる公園」として再生してINN THE PARKというグランピング施設が運営されています。
(画像出典:innthepark.jp)
森の中に浮かぶドーム型テントは幻想的。
近代的なのに、自然に溶け込んでいて、不思議な空間を作り出しています。
(画像出典:innthepark.jp)
広々とした森の中での宿泊ができる上、地産地消の美味しい料理も人気のINN THE PARK、数ヶ月先まで予約が取れないほどの人気施設となっています。
公式サイト:INN THE PARK
関西国際空港を臨む泉南市の海岸に、2020年7月開業した泉南りんくう公園。
(画像出典:sennanlongpark.com)
約2kmの長い海岸に沿って、スポーツ施設、飲食店、地元食材の市場、キャンプやグランピング施設など多彩なコンテンツやアクティビティが配置され「SENNAN LONG PARK」とも呼ばれています。
(画像出典:sennanlongpark.com)
白い浜に面して設置された箱型のホテルは、広々とした屋外スペースPatioや専用ジャグジーもあってリゾート感満載。
(画像出典:sennanlongpark.com)
屋外キッチンやBBQグリルも完備で自由に家族や仲間と海を目の前にBBQが楽しめます。
公式サイト:SENNAN LONG PARK
温泉の街としても有名な大分県別府市に、2021年GWに開業するグランシア別府鉄輪。
(出典:granxia-beppu.com)
鉄輪地獄地帯公園の一部でPark-PFIを活用し生まれたグランピング施設で、温泉地での新しい過ごし方を提案するアウトドアリゾートです。
グランシア別府鉄輪で採用されているのは、季節を問わず快適な宿泊環境が整うドームテント。
(出典:granxia-beppu.com)
温泉地の別府の宿でも珍しい、ゲストルームそれぞれにプライベート温泉がついているのも魅力の一つ。
(出典:granxia-beppu.com)
別府ならではの地獄蒸し体験など、地域をアピールするコンテンツに加え、ペットの犬と宿泊できるドッグラン付きのサイトなどサービス面でも充実しています。
公式サイト:グランシア別府鉄輪
神奈川県横須賀市が2020年からPark-FPIの公募を行い、2021年に日比谷花壇を代表企業とする「エリアマネジメント横須賀共同事業体」が選定された、長井海の手公園。
この公園は、過去にもPFI方式で整備・運営が行われた全国初の都市公園としても知られ、「ソレイユの丘」として市民に親しまれていて、遊び場やキャンプ場が整備されています。
さらに、長井海の手公園に隣接する約6万6000m2の土地を活用して公園全体をリニューアルし、交流拠点としての機能を拡充するというのが新しいプロジェクトで、約2000m2のグランピングエリアも作られる予定。
実際に開業・運営が始まるのは2023年4月の予定とのこと、これから準備が進められるとのことで今からどんな施設になるのか楽しみです。
グランピング完成イメージ
(出典:project.nikkeibp.co.jp)
このように、Park-PFIを活用し、すでに稼働しているグランピング施設から、これから施工が始まるものまで、日本各地でPark-PFIに関連するグランピング施設が徐々に増えてきています。
実際に、これからPark-PFIを取り入れようとしている滋賀県の琵琶湖周辺や、広島県福山市の中央公園など、「グランピング」のワードを公募設置等指針の中に組み込んでいて、この先も各地でこの動きは増えていくものと思われます。
以上、Park-PFI制度の概要と、実際にPark-PFIを活用して生まれたグランピング施設をご紹介しました。
国や市町村と民間企業が協力しあって、より良い環境の公園を作り、市民の憩いの場であったり観光の名所として活性化するというコンセプトのPark-PFI。
興味のある方はぜひチェックしてみてくださいね。