アウトドアに少しでも興味がある人なら、いちどは聞いたことのある「グランピング」。
グランピング=グラマラス(魅力的な・華やかな)+キャンプ、つまりは普通のキャンプじゃなくてもっといいやつ、となんとなく認識されていますが、そもそも誰が作った造語で、いつから使われているのか?その本当の意味やキャンプとの違いは?
調べてみて分かったことを徹底解説します!
ワンランク上のキャンプ、という感じで現在定着している言葉、「グランピング」ですが、このルーツは古く1,100年頃まで遡ります。
当時は、グランピングという言葉はなかったのですが、グランピングのスタイル・コンセプトの発祥はモンゴル民族のゲルだと言われています。
(画像出典:wikipedia)
ユルトとも呼ばれるこの住居形式は、1,100年代にチンギス・カンの統治下、強風から身を守りながら暮らすことができ、同時に移動できる住居としてモンゴルの民族によって編み出されました。
木とラクダの腱で作られた骨組みの上から、羊毛で作ったフェルトの布を被せて屋根と壁にするスタイルは、現在のロッジ型テントとほぼ同じ構造で、骨組みはアコーデオンのように折りたたむことができます。
(画像出典:wikipedia)
遊牧生活で移動しなくてはならないモンゴルの民族は、折りたたんで移動することのできるテントのような住まいでありながら、通常の生活を快適に送ることのできるこのゲルで、現在も生活しています。
1000年も前からほとんどスタイルを変えることなく使われているゲル、その丈夫さと快適さ、そして自然の中で調和するテントのスタイルで、現在では世界各国のグランピング施設でも採用されています。
日本でも、栃木県那須高原にある那須モンゴリアビレッジ テンゲルなど、モンゴルのゲルに宿泊できるグランピング施設があります。
(画像出典:tenger.jp)
このように、移動可能で自然の中に建てることのできる居住空間で快適に過ごす、という概念は1,100年頃にモンゴルで生まれたと考えられていますが、当時のモンゴルの人たちは生活のための工夫として取り入れただけで、もちろん「グラマラスなキャンプをしている」という感覚はなかったと思われます。
では現在のような「グランピング」の発想はいつから始まったのでしょうか。
テントでの生活を豪華にする、というスタイル自体は、16世紀ごろのヨーロッパですでに存在していました。
例えば、16世紀のスコットランドのアトール伯爵は、スコットランド王ジェームズ5世とその母君が訪問する際に豪華に飾ったテントに宮殿の調度品を並べて滞在する、という体験をプレゼントしました。
また、1520年にイングランド王のヘンリー8世とフランス王のフランソワ1世の間で行われた外交サミットでは2,800ものテントが建てられ、噴水からは赤ワインが流れたと言われ、「金襴の陣(Field of the Cloth of Gold)」として歴史に残っています。
(画像出典:wikipedia)
同時期にはのちにトルコ帝国となるオスマン帝国も、軍隊の移動の際には金や絹糸で装飾された豪華なテントと職人たちを一緒に移動させ、冠婚葬祭や演劇なども行なっていたそうです。
(画像出典:hali.com)
実際の住居に使われるタイル装飾のモチーフを刺繍するなどきらびやかな住居を移動中のテントに再現することで、帝国の支配者の権力を見せるという意図があったそうです。
このように、「移動中などの仮の住まいとしてのテントを豪華に飾り、実際の宮殿と遜色ない状態にして滞在したり見せつけることで、権力や富を見せつける」というのがヨーロッパでのグランピングスタイルの起源とされています。
ただこの時点では、本当に限られた王様クラスの人のみができる、超贅沢であったことは間違いありません。
欧米で、キャンプのスタイルのひとつとして、現在「グランピング」と呼ばれているようなスタイルが浸透し始めたのは1920年代頃と言われています。
当時、アメリカやヨーロッパの富裕層の間では、アフリカでサファリ・キャンプ・アドベンチャーをすることが流行っていました。アフリカの大自然を感じながら狩をしたりしてある一定期間滞在するというものです。
彼らはアフリカ遠征の際にも、自分の裕福で豪華な家にいるような感覚を忘れたくないという強いこだわりがあり、アンティーク家具やペルシャ絨毯、ダブルベッドに豪華な寝具を備えてあるサファリテントに宿泊し、シャンパンを詰めたケースや折りたたみのバスタブ、発電機も持参しました。
(画像出典:pinterest)
都会に暮らす彼らにとって、アフリカの大自然は本当に素晴らしいものでしたが、贅沢な生活を我慢することなく冒険を楽しんでこそ本当のレジャーだという考え方は、現在のグランピングの概念にかなり近づいています。
この後、現在までのおよそ100年の間に、このようなスタイルが徐々に富裕層の間で浸透し、やがて「野外活動やアウトドアは好きだけど、実際のところテントで寝泊まりするのはあんまり楽しいと思わない」と感じる人との間へと広がっていきました。
しかし、「グランピング」という言葉が実際に使われるようになったのは、2005年頃だと言われています。
「グランピング」というのは魅惑的なという意味の「グラマラス」と、「キャンプ」を合わせて作られた造語ですが、では一体誰がいつ、最初にこの言葉を使ったのでしょうか?
「グランピング」という言葉が使われるようになった時期については、イギリスで2005年頃から使われるようになった、と言われています。
しかし、多くの造語がそうであるように、「グランピング」に関しても誰が最初に作った言葉かというのははっきりしていません。
いくつかの説の中で、もっとも有力な「発案者」とされているのが、アメリカ合衆国・アイダホ州で農園を経営しているMaryJane Butters(メリージェーン・バターズ)という女性です。
(画像出典:wikipedia)
世界的にも有名なオーガニック農園主であり、ライフスタイルなどについての書籍の著者でもあるメリージェーンは、2004年、自身の農園の中に宿泊施設をオープンさせました。
彼女がお客さんをもてなすために用意したのは、カンバス生地のテント。
フローリングを張り、薪ストーブを置き、ヴィンテージのアイアンベッドのロマンチックなベッドリネンにはオーガニックコットンのシーツをかけ、屋外には猫足のバスタブを置いたこのゲストルームは、
the juxtaposition of rugged and really pretty, grit and glam, diesel and absolutely darling
「頑丈さととっても可愛いもの、強さとグラマーさ、ディーゼルと絶対的なダーリンの組み合わせ」
とNew York Times誌で評され、力強く男らしいイメージだったキャンプに、グラマラスでロマンティックという女性的なエッセンスを加えたものを「Glamping, or Glamor camping(グランピング、もしくはグラマーキャンピング)と名付けました。
(画像出典:maryjanesfarm.org)
メリージェーンがこの「グランピング」という言葉をアメリカの新聞「USA Today」の記事の中で使ったことから、多くの人に知られるようになったと言われています。
(出典:Wikipedia)
メリージェーンの女性的感性で作り出した新しい宿泊のスタイルと、「グラマラス」という響きが相まって、女性的なイメージの「グランピング」という言葉は覚えやすさもあって人々の生活の中にすっと受け止められ、使われるようになり、2016年にはオックスフォード辞書にも登録されました。
グランピングと一般的なキャンプでは何が違うのか?というのも素朴な疑問ですが意外と分かりにくいですよね。
そもそも、グランピング=グラマラス(もしくはグラマー)なキャンプ、ということなので、キャンプであることに変わりはありません。
では、どう違うのか?
オックスフォード辞書のオンラインバージョンで「グランピング」を調べてみると、
「伝統的なキャンプよりも、より豪華な宿泊施設や設備を備えたキャンプの様式」と書いてあります。
なんとなく分かるような気もしますが、そもそもヨーロッパやアメリカのように「伝統的にキャンプを楽しむ」という文化の薄い日本の人にとって、さらには今までキャンプもあまりしたことのない人にとって、「伝統的なキャンプ」がそもそもよく分かりません。
さらに「グラマラス」という言葉も、普段の生活で「うん、これはグラマラスだよね」と感覚的に思う人は少ないのではないでしょうか。
2008年にNY TIMES誌に掲載された、グランピングを紹介する記事によると、グランピングというのは、
「伝統的なキャンプを体験したいが、アクセスしにくい(テントを張るのが面倒・地面がゴツゴツして眠りにくい、食事の用意が大変、虫が苦手、など)というハードルを取り除いた快適な施設を利用すること」だそうです。
要するに、
など、日常生活から離れて自然を感じながら宿泊をしたい、けれどもある程度快適に過ごすための準備を考えるとハードルが高くてできない・・・そういう人のために、アウトドア体験を得るためのアレコレを準備してくれる施設を利用してアウトドアを楽しむ、ということがグランピングと言えるでしょう。
その体験が心地良いものであれば、それがあなたにとっての「グラマラスなキャンプ体験」となるに違いありません。
以上、グランピングの由来や意味、グランピングとキャンプの違いについて考察してみました。
これからも進化や発展を続けていくと思われるグランピングの世界、どんな施設が現れ、どんな体験ができるようになるのか、楽しみですね。
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